「漢方の一久」店主・小國修広と、他県の漢方薬局で修業中の〝お弟子君〟。2人の対話形式でお届けする漢方法話。今回のお題は「結論からお伝えすると…」です。

まず不安を吐き出すことから

弟子 今日はお店を見学させていただいて、ありがとうございました。お客様とどう接していけばいいのか参考になりました。
小國 参考になったならよかった。今日は濃い1日だったね。
弟子 入れ替わり立ち替わり色々なお客様がいらして。症状の重い方が多かったですね。
小國 いつも以上に深いお悩みの方が多かったですね。昼過ぎに予約なしで来られた、目が疲れきって早口だった女性。カウンセリングの個室にはお弟子君は入っていないけど、受付でお会いしただけでも感じるものがあったでしょう。
弟子 焦っているような、とても不安なご様子でしたね。カウンセリング中は、小國さんの声しか聞こえてきませんでしたが、長時間お話しされていましたね。
小國 たくさんお話していただきました。この方は話し始めて間もなく、声が震えてきて、ぽたぽたと涙を落とされて。お子さんとの関係、お仕事のプレッシャーなど聞かせていただきましたが、最後は「なんだか、スッキリしてきました」とおっしゃっていただきました。
弟子 帰り際のお顔は、別人のように穏やかで、まるで憑き物が落ちたようでした。
小國 気持ちを吐き出したからでしょう。いままでずっと、つらくても泣かずに頑張ってきた方でした。そういう方ほど、1度泣いて吐き出すことも大事かと思います。ですからとにかく鎧をとって、お話しして欲しいなと思っているんです。
弟子 僕はまだ、そういう方に応えられる自信がありません。やっぱり経験なんでしょうか。
小國 大事なのは経験よりも、「やる」と決めることだと思うよ。お弟子君も、相談薬局で仕事をしているからには、つらい方がいたら、その悩みを受け止めて、なんとか治したいと思うでしょう。だから悩みを受け止めると決めて、どう役に立てるかを考えるんです。自信があってもなくても、お客様は目の前にいらして、漢方で治したいと望まれているんだからね。
弟子 そうですね。経験不足だからと逃げていたら、いつまでも経験できないままですね。
あのお客様は、不安でいっぱいのご様子でした。小國さんが最初にあの方に掛けたのは、どんな言葉でしたか?
小國 「結論からお伝えると、大丈夫ですよ」と、まずそう伝えました。
弟子 え? あんなにつらそうだったのに、最初から「大丈夫だ」と思われたんですか?
小國 お会いしてすぐに、あの方の一番の問題は、ストレスでいっぱいの状態になっていて、眠りが浅くなっていることだと思ったからね。経験上、そういう方は、ストレスをさばいて、眠りを改善すれば必ずよくなるんです。
弟子 だから「大丈夫」と言えたんですね。あの方はとても安心されたでしょうね。
小國 そうですね。また、ある程度ご自身の不調などを話していただけると処方の精度も高まります。気になっていることがあれば、なんでもお話しくださいとお願いしました。
弟子 「話すだけで楽になる」ということもあるんでしょうね。先日、印象的だった場面がありました。小國さんが受付にいて、60歳くらいの常連さんらしい女性が入っていらして。ここ何日か眠れない、体がつらいといいながらも冗談を言われて、小國さんも冗談を返して大笑いして。10分くらい立ち話をして、「一久さんと話したら、元気出たわ」って帰っていかれたでしょう。あの感じ、いいなと思いました。
小國 いいお客様が多くて、支えていただいて、ありがたいことです。
大笑いしていたお母さんは、あの日、何も買わずに帰っちゃったけどね(笑)