「漢方の一久」店主・小國修広と、他県の漢方薬局で修業中の〝お弟子君〟。2人の対話形式でお届けする漢方法話。今回のお題は「夜勤をしている方へ」です。

不規則な生活による影響

弟子 夜勤のあるお仕事をされていて、体の不調を抱えている方は多いですね。そういう方には、どう漢方を役立てていただいたらいいのでしょう?
小國 当店のお客様も、多くの方が夜勤をこなして頑張っていらっしゃいます。2時起きでお弁当を持って出勤しているお母さん。急患の呼び出しもあり緊張が解けないというお医者さん。みなさん、体に負担がかかっていることは自覚されていても、お仕事や生活は簡単には変えられない環境でがんばっている。ですから夜勤をされている方にこそ、ぜひ漢方をご活用いただきたいです。
弟子 そうですね。夜勤はこれからも続くとして、小國さんはどんな提案をされていますか?
小國 環境は変えられなくても、ご自身の身体は変えられます、とお話ししています。当店へ相談に見える方は、10年、20年頑張ってきて、もう無理がきかなくなっている方が多いんですね。お仕事中は気合で働いているけれど、家ではぐったりしたり、イライラが抑えられなかったりという方が多い。そういう方の一番の問題として精神や肉体の「慢性の疲れ」があると思います。
弟子 お客様の主訴として「疲れ」が多いのですか?
小國 いえ、来店のきっかけとして一番多いのはダイエット。「痩せたい」と相談にこられるけど、体重が増えてしまった原因を探っていくと、体も心も疲れていて、そのために痩せられない状態になっている方が多いんだよ。
弟子 表面的に気になるのは体重の増加でも、根底には別の問題があるんですね。
小國 そうだね。夜勤で生活リズムが崩れると、寝ている間も臓器が動きっぱなしで休まらない状態になる。そうなると必要なホルモンが分泌されず、血液も作りにくくなっていく。血液が少なくなると「血虚」の状態になって、足がつる、しびれるという症状が出てくるんです。「マスト人生に疲れたら」でお話しした、ストレスホルモンのコルチゾールも増え、高血圧や高血糖にもつながるんだよ。
弟子 よく「ストレスで太った」というような言い方をしますが、体の中ではさまざまな問題が起きているんですね。
小國 そう。体重は気にして毎日計っていても、血液検査はしていないという方が多いけど、見えないからといって放置していると、体はどんどん消耗していってしまう。たとえば高血糖になると血液がドロドロになって、動脈硬化を起こし、脳梗塞や心筋梗塞などを起こす可能性も高くなるんだよ。
弟子 そうならないために、漢方はどのように役立てることができますか?
小國 健康に不安を抱えている方は、体を畑に例えるなら、土壌が冷たくて、硬くなっている状態。流れる水も少なく、質も低下しているかもしれない。だからまず土を耕し、水を回し、きれいな水をまわして、そこに健康の元となる苗を植えていきましょうとお伝えしています。そうするために最も重視するのが「睡眠」です。睡眠時間が増やせないなら、眠りの質をよくしましょうとご提案して、そのための生薬を処方します。「睡眠にはこれ」という処方があるのではなく、血を補うもの、ストレスを取るものなど、その方の体質や状態に合わせてご提案します。
弟子 処方はお一人ずつ違うとのことですが、夜勤をしている方に共通してお伝えできることはありますか?
小國 夜勤のあるお仕事に就かれている方は、ご自身が頑張っているのだということを意識していただきたいと思います。とくに長く夜勤を続けている方ほど、ご自身がどれだけ無理をしているか気づいていないことが多いようです。体に負担が掛かっていることを自覚していただき、無理をされているぶん、体を労わることを何かしていただきたいと思います。
夜勤のある方は、食事や睡眠など、生活をご自身でコントロールすることが他の方よりどうしても難しくなります。だからこそ、そのぶん漢方を役立てていただきたいと思うのです。